Walker type ATPase (ClpB) と Hsp70 type ATPase (DnaK) の協同作業


 

ClpB と DnaK は協同的に働いて,凝集タンパク質を再生する

 ここ2,3年の間に,ClpB (Hsp104) と DnaK(Hsp70) とその補因子が協同的に働いてシャペロン活性を示す,という報告が相次いでなされた。 これらの報告で特に注目すべき点は,このシャペロンシステムが一度凝集してしまったタンパク質を再び活性のある状態にまで再生するということである。 このような脱凝集活性は,これまで知られている分子シャペロンには見られなかったものである。

 1990 年,Lindquist らのグループは酵母の耐熱性に関わる因子として Hsp104 を同定した。 その後,彼女らは in vivo の実験から Hsp104 の欠損が細胞内の凝集体の蓄積を引き起こす事,Hsp104 が Hsp70 と協同的に働く可能性などを示してきた。 そして最終的に Hsp104 ,Ssa1(Hsp70),Ydj1(Hsp40) が凝集タンパク質を再生する事を in vitro で示すことに成功した1。 これに続き,我々のグループは好熱菌Thermus thermophilus の系で2,Zolkiewski や Bukau のグループなどは大腸菌の系で,ClpB と DnaK,DnaJ,GrpE (DnaK システム)が凝集タンパク質を再生する事を示した3,4。 その際,Bukau のグループは疎水プローブである Bis-ANS が凝集タンパク質に結合する様子や,ClpB 内のトリプトファンの蛍光変化を調べている。 その結果から彼等は,このシャペロンシステムが働く時,まず ClpB が凝集体に働きかけてその疎水表面を露出させ,それを DnaK が捕らえて再生する,というモデルを提唱した。彼等はcell lysate や細胞そのものを用いたプロテオーム的解析も行っており,実際に細胞内でも ClpB と DnaK システム が凝集タンパク質の再生に主要な役割を担っていること,またそのターゲットとなる基質タンパク質を具体的に明らかにした5。  また最近,酵母ミトコンドリアの ClpB と DnaKシステム に相当する,Hsp78,Ssc1,Mdj1,Mge1 によるシャペロン活性も報告された6。

この報告の中で,大腸菌,酵母のサイトゾルおよびミトコンドリアの各系のコンポーネントを様々に組み合わせてその互換性を調べている。 その結果,いずれの系においても ClpB と DnaK システムには特異性があり,ヘテロな組み合わせでシャペロン活性を持つものはほとんどなかった。 この結果は ClpB と DnaK が直接的に相互作用している事を示唆する。

DnaK システム,ClpB のシャペロン活性の分子機構

 この ClpB と DnaK システム からなるシャペロンシステム (DnaK-ClpB システム)のうち,DnaK システム はそれだけでも分子シャペロンとして働くことがすでに知られている。 その際 DnaK は 結合ヌクレオチドの状態により,基質タンパク質への親和性を変化させることにより結合解離をくり返し,そのタンパク質の巻き戻りを助ける。 補因子である DnaJ,GrpE は DnaK による ATP の加水分解,結合ヌクレオチドの交換反応を促進し,DnaK の状態を制御している。DnaK システムが ClpB と協同して働く場合にもその基本機構は変わらないだろう。

 一方で,ClpB の作用機構はほとんどわかっていない。 ClpB が凝集タンパク質を認識して ATP 依存的にその疎水表面を露出させるとしても,ClpB がどこでどのように凝集タンパク質を認識,結合し,ATP の加水分解のエネルギーをどのように使って凝集体に作用するのかは明らかにされていない。 この ClpB の分子機構に関して,決定的な報告は残念ながらまだないが,変異体 ClpB を用いた解析からいくらかの情報が得られているので,以降それらについて述べる。

ClpB の基質タンパク質認識機構

 ClpB はその一次配列の類似性から Clp/Hsp100 ファミリーに分類される。このファミリーのメンバーの多くは ATP 依存プロテアーゼの制御サブユニットである。 多くの ATP 依存プロテアーゼは,その制御サブユニットに相当する部分で基質タンパク質を選別している。 この制御サブユニットである Clp タンパク質の C 末領域が基質タンパク質の認識,結合部位ではないかという事を調べた研究がある7。 いくつかの Clp タンパク質の C 末領域を部分発現させ,様々な ATP 依存プロテアーゼの特異的基質との結合を調べている。 その結果,基質の結合と実際の基質特異性が一致するものが多かったことから,この領域を SSD(sensor and substrate discrimination) domainと名付け Clp タンパク質の基質認識,結合部位と結論している。 この報告の中で,ATP 依存プロテアーゼの制御サブユニットではないとされるClpB の C 末領域についても同様の実験がおこなわれ, ATP 依存プロテアーゼの特異的基質の一つとの結合が見られている。 しかし,実際に ClpB がこのタンパク質と意味のある結合をしているのか,凝集タンパク質の認識もこの SSD で行われているのかは疑問である。

 一方で,N 末領域の重要性を示唆する結果もある。Clp/Hsp100 ファミリーのタンパク質は,モデル変性タンパク質であるカゼインによって,ATP 加水分解活性が促進される。 N 末領域を欠損させた ClpB はこのカゼインによる ATP 加水分解活性の促進の度合いが弱くなり,シャペロン活性がなくなる8。

 また,まだ論文にはなっていないが,最近 Bukau らのグループは ATP 依存プロテアーゼである ClpAP は,彼等が新規に発見した因子 ClpS によってその基質特異性が変化し,凝集タンパク質を分解するようになるという結果を発表している。 この結果は,同じく凝集タンパク質を基質とする ClpB の基質認識機構を考える上で重要な情報となるだろう。

ClpB の ATP 加水分解とシャペロン活性

 Clp/Hsp100 ファミリーはポリペプチド鎖内に Walker 型のヌクレオチド結合モチーフを2組持つ Class1 と1組しか持たない Class2 に分類される。 ClpB は Class1で2組のヌクレオチド結合モチーフを持つ。ClpB あるいは Hsp104 の2組の Walkerモチーフに,それぞれ変異を導入し,その影響を調べたという研究が複数報告されているが,その結果および解釈は混沌としている9-12。例えば, ClpB は ATP存在下で,6あるいは7つのサブユニットからなるリング状のオリゴマー構造をとるが,酵母 Hsp104 では C 末側のヌクレオチド結合部位がこのオリゴマー構造の維持に必要だというのに対して,大腸菌 ClpB では逆の結果が報告されている。結局,全ての報告をまとめて言える事は,(1) ClpB(Hsp104)のヌクレオチド依存的なオリゴマー構造の維持には二つのうちどちらか一方のヌクレオチド結合部位が働いている,(2) オリゴマー構造をとる事で大きな ATP 加水分解活性を持つ,(3) ATP 加水分解に関して,サブユニット内の二つのヌクレオチド結合部位の間およびサブユニット間になんらかの協同性がある,という事くらいで具体的な ATP 加水分解サイクルについてはほとんどわかっていない。更に,シャペロン活性との相関にいたっては,いずれのヌクレオチド結合モチーフへの変異導入もシャペロン活性を阻害するという事しか分かっていない。

 ClpB のシャペロン活性には様々なパラメーターが影響し,多くのコンポーネントが関わることを考えると,その分子機構の解明にはまだ時間がかかりそうである。

1. Glover, J. R., and Lindquist, S. (1998)Cell 94, 73-82
2. Motohashi, K., Watanabe, Y., Yohda, M., and Yoshida, M. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 7184-7189
3. Zolkiewski, M. (1999) J. Biol. Chem. 274, 28083-28086
4. Goloubinoff, P., Mogk, A., Zvi, A. P., Tomoyasu, T., and Bukau, B. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 13732-13737
5. Mogk, A., Tomoyasu, T., Goloubinoff, P., Rudiger, S., Roder, D., Langen, H., and Bukau, B.(1999)EMBO J. 18, 6934-6949
6. Krzewska, J., Langer, T., and Liberek, K.(2001) FEBS Lett. 489, 92-96
7. Smith, C. K., Baker, T. A., and Sauer, R. T. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 6678-6682
8. Barnett, M. E., Zolkiewska, A., and Zolkiewski, M. (2000) J. Biol. Chem. 275, 37565-37571
9. Schirmer, E. C., Queitsch, C., Kowal, A. S., Parsell, D. A., and Lindquist, S. (1998) J. Biol. Chem. 273, 15546-15552
10. Kim, K. I., Cheong, G. W., Park, S. C., Ha, J. S., Woo, K. M., Choi, S. J., and Chung, C. H. (2000) J. Mol. Biol. 303, 655-666
11. Schirmer, E. C., Ware, D. M., Queitsch, C., Kowal, A. S., and Lindquist, S. L. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 914-919
12. Schlee, S., Groemping, Y., Herde, P., Seidel, R., and Reinstein, J. (2001)J. Mol. Biol. 306, 889-899

渡辺洋平(東工大・資源研)

特定領域研究「分子シャペロンによる細胞機能制御」領域ニュース別冊 より許可を得て転載



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