ATP依存性プロテアーゼ群の分子進化

これまでに原核生物から真核生物に至る生物から多数のATP依存性プロテアーゼが発見され、それぞれの機能の解析はまだ多く残されたままであるが、その同定はほぼ終わりに近づいている状況と思われる。真正細菌、古細菌、真核生物のいずれについても全ゲノム配列が明らかにされた例が発表され、比較検討が可能になった。そういう観点でこれらの多様なATP依存性プロテアーゼ群を眺めることが多少なりとも機能や生物学的意義を考えるヒントになるかも知れない。ただし、始めにお断りしておくが、私自身は蛋白の進化をコンピューターで解析しているプロでは無いので、実際のところ分子進化といえるような高尚な話にはなりそうもないが、私見を交えていくつかのポイントを指摘してみることにする。

ATP依存性プロテアーゼの多様性  

 いくつかの種についてATP依存性プロテアーゼを表にまとめてみた。一応、全ゲノムの明らかになったものについて現時点でATP依存性プロテアーゼとして同定されたものおよびそのホモログをピックアップした。これら以外にも新たなプロテアーゼが見つかる可能性もあるし、逆に後で述べるようにClpBについてはこれまでのところプロテアーゼ活性は見いだされていない。話の都合上、表に入れておいた。

種々の生物種におけるATP依存性プロテアーゼ

生物種

FtsH

Lon

ClpA/B/X/C

ClpP*

HslU

HslV*
β*

Proteasome
α*

Proteasome
ATPases

大腸菌

1

1

A/B/X

1

1

1

-

-

インフルエンザ菌

1

1

B/X

1

1

1

-

-

マイコプラズマ

1

1

B

-

-

-

-

-

ラン藻

4

-

B/B/X/C

4

-

-

-

-

古細菌

-

1

-

-

-

1

1

2

出芽酵母

(3)

(1)

B(B/X)

-

-

7

7

6

*印は非ATPaseの触媒サブユニット。HslVはプロテアソームのβサブユニットと相同的。 FtsHのATPaseとプロテアソームのATPaseは相同的。 ()内はミトコンドリアに存在。ミトコンドリアのFtsHホモログはYta10p(Rca1p)、Yta12p(Afg3p) とYme1p(Osd1p)の3つ、LonホモログはPim1p、ClpB、ClpXホモログはそれぞれHsp78、Ybr227pである。細胞質のClpBホモログはHsp104。

 まずこの表を見て気づくことは真核生物では、細菌起源とされる細胞小器官を除けば、基本的にATP依存性プロテアーゼはプロテアソームだけであるのに対して、原核生物は複数の異なるATP依存性プロテアーゼを持つことである。これは細胞の複雑性という点からは一見不思議な気がする。ただ、プロテアソームはそれ自体何十ものサブユニットからなる巨大な複合体で、機能的にも多機能であることからすれば、原核生物と真核生物は別の方法を選択したということであろうか。では、原核生物のATP依存性プロテアーゼの機能をすべて兼ね備えたのがプロテアソームであろうか?あるいはどれかがプロテアソームの原型(プロトタイプ)であろうか?表に挙げた生物のうち出芽酵母は間違いなく真核生物であるし、最近の知見を踏まえれば古細菌も細菌という名にかかわらず、真正細菌よりむしろ真核生物に近縁らしい。そこで最近はArchaebacteriaではなく単にArchaea(何と訳すのでしょう?始原細胞という訳語を見たこともあるが)と呼ぶことが提唱されている。実際、ATP依存性プロテアーゼの観点からも真核生物に近いことがうかがえる。そのサブユニット構成はかなり単純ではあるが、確かにプロテアソームを有している。そしてそれ以外にはLonプロテアーゼを持つ。Lonの機能はプロテアソームでは代用できないということか?ただし、後で述べるように古細菌のLonは真正細菌のLonとは異なる起源かもしれない。原核生物は大別して4種類のカテゴリーのATP依存性プロテアーゼを持つ。FtsH、Lon、ClpとHslVUである。Clpプロテアーゼの場合には、触媒サブユニットとしてClpPを共通に含むClpAPとClpXPの少なくとも2種類があるので、プロテアーゼの数としては5種類以上ということになる。さて、には大腸菌からラン藻まで4種類の真正細菌を挙げたが、これらの原核生物が持つATP依存性プロテアーゼのセットはそれぞれ異なり、どれ一つとして同じセットのものは無い。またまた原核生物の多様性である。しかし、細かく見ていくと興味深い側面が見えてくる。まず、これらすべてに共通するのはFtsHである。しかも、ラン藻ではその数4つ。御存じのように、FtsHはこの表に挙げたプロテアーゼの中で唯一膜結合型のプロテアーゼである。ラン藻と真核生物の葉緑体は共通の祖先から進化したと考えられていて、細胞膜のほかにチラコイド膜を持つ。このことと、4種類のFtsHを持つことが深く関わると想像されるが、ここでの本題ではないので話を先に進める。次に、ラン藻を除けば、Lonが共通に存在する。HslVUは大腸菌とインフルエンザ菌に存在し、HslVがプロテアソームの触媒サブユニットβと相同性があることから、これこそがプロテアソームのプロトタイプとして注目を集めているプロテアーゼである。HslVUは枯草菌などグラム陽性菌にも存在することが分かっている。しかし、果たして本当にHslVUがプロテアソームのプロトタイプであると結論してよいだろうか?二つの点を指摘したい。一つは、確かにHslVがプロテアソームのβサブユニットのホモログであるのは間違いないと思われるが、HslUはプロテアソームの制御ATPaseのプロトタイプとは言い難い。この表に挙げたすべてのATP依存性プロテアーゼのATPaseドメインはWalkerモチーフA、Bを共通に持ち、互いに似てはいるが、HslUがプロテアソームのATPaseに一番近いかというと、それほど似ていない(Alignment of the conserved ATPase domains in AAA, Hsp100/Clp and Lon proteinsのAlignment参照)。では、どれがプロテアソームのATPaseに似ているか?FtsHである。FtsHとプロテアソームのATPaseのアミノ酸配列は極めて相同性が高く、ともにAAAスーパーファミリーに属するATPaseである。進化の過程でこういうことがあったのではないだろうか?基本的にはプロトタイプのATPaseから様々なATPaseが派生・進化し、真正細菌はこれらすべてを引き継いだ。一方、真核細胞はプロテアーゼATPaseとしてはAAAだけを引き継いだのではないか。最初はすべてのセットを引き継いだが、プロテアソームが出現した後、それ以外のものは不要となってどんどん失われたのかもしれない。いずれにしてもプロテアソーム以外を捨てた真核細胞は、細菌の細胞内共生によりミトコンドリアや葉緑体といった細胞小器官が形成され、再びFtsH, Lon, Clpを獲得することになったと思われる。これらの遺伝子はその後核に移行した。下等な植物(ケイ藻など)の葉緑体(色素体)のゲノムにはFtsHホモログの遺伝子が今も存在するものがあるが、酵母のミトコンドリアや高等植物の葉緑体に存在するFtsHホモログはすべて核遺伝子によってコードされている。酵母の細胞質に存在するClpBホモログHsp104蛋白の遺伝子ももしかすると今はミトコンドリアになった共生細菌が本来持っていたものかもしれない。

他のATPaseとの関係  

 そもそもこれらのATPaseはすべて、本来プロテアーゼの制御ユニットとしての必然性があったと考えるより、今で言う広義のシャペロンとして機能していた(いくつかは今でも)と考える根拠がある。まず、表に挙げた蛋白がすべてプロテアーゼであるかというと、ClpBは疑問である。ClpBについてはプロテアーゼとしての証拠はなく、シャペロンであるとされている。残念ながら、in vitro系での証明はまだのようであるが、シャペロン機能を示唆するin vivoの証拠は数多い。マイコプラズマにはClpBが存在するが、触媒サブユニットのClpPが存在しないこともClpBがプロテアーゼではないことを示唆している()。逆に現在プロテアーゼであることが確実なものについて、そのATPaseサブユニット/ドメインが実際にシャペロンとして機能することが明らかになったものがある。ClpAとClpXのシャペロン機能はin vitroでも証明されている。また酵母のFtsHホモログ(Yta10p/Yta12p複合体)とLonホモログや大腸菌のFtsHについてもシャペロン活性を示唆する結果が得られている。これらのATPaseは、蛋白質と相互作用するATPaseとして進化し、その後プロテアーゼ活性モチーフを分子内にジョイントするかあるいはプロテアーゼ活性サブユニットと会合することにより、プロテアーゼとして機能するようになったものと考えられる。つまり、本来ATPaseユニットとプロテアーゼ活性ユニットは機能的にも物理的にも別々の単位として存在していたと考えれば、現在でもこれらのATPaseがシャペロン機能を持つことやAAAグループ、HslUグループがそれぞれ真正細菌ではFtsH, HslVUに、真核生物と古細菌ではプロテアソームへと、全く異なる組合せの方向に進化したことが説明しやすい。この考えを支持するいくつかの事実がある。真正細菌にはLonの他にこれに似た2種類の蛋白が存在する。一つはRadA/Smsで、大腸菌、インフルエンザ菌とラン藻に存在する。枯草菌などにも存在することが分かっている。RadA/SmsはLonのプロテアーゼ活性ドメインと相同なドメインを持ち、Lonとは異なるタイプのATPaseドメインを持つ。しかし、RadAはDNA修復に働く蛋白のようでどうもプロテアーゼではないらしい。大腸菌とインフルエンザ菌のRadA/SmsではLonの活性部位に相当するSer残基が保存されているが、枯草菌やラン藻のSmsのその部位はAlaに変化していることからもプロテアーゼではないことがうかがえる。もう一つは、大腸菌やインフルエンザ菌で見つかっているLonBである。この蛋白はLonのプロテアーゼ活性ドメインと相同なドメインを持つが、ATPaseドメインを持たない。プロテアーゼかどうかはまだ不明である。古細菌のLonのATPaseドメインは真正細菌のそれとは異なるグループに属する。さらに真正細菌のマイコバクテリウムにはFtsHとは異なりプロテアーゼの活性ドメインを持たないAAA ATPaseが見つかっている(真正細菌のAAAタンパク質 参照)。これらの事実はATPaseドメインとプロテアーゼ活性ドメインが本来別々に存在した可能性を示唆する。DNA組換えや修復に働くDNAヘリカーゼRuvBなどもかなり近縁のATPaseであることから推論すれば、これらのATPase群の祖先型は蛋白に限らず核酸などを含めた高分子と相互作用するATPaseであったのかもしれない。そう言えば、LonのATPase活性はDNA存在下で促進される。しかも、Kooninらによれば、大腸菌のDnaA, DnaCや真核細胞のMCM蛋白なども近い関係のATPaseらしいので、DNAとの相互作用は筆者の想像だけではなさそうだ。

Clp ATPase

 Clp ATPase群について少し述べておく。ClpA, B, C ATPase群は間違いなくファミリーを形成しており、しかもこれらはN末端側とC末端側に2つのATPaseドメインを持つ。これらのタイプ分けはATPaseドメイン以外の部分の特徴によるもので、ATPaseドメインの相同性はClpABC共通にN末端側ドメイン同士、C末端側ドメイン同士で高いが、同じ分子内のN末端側ドメインとC末端側ドメインはそれほど似ていない。ClpABCはATPase遺伝子の重複によってできたと考えるより、それぞれのATPaseは別々に進化し、あとで遺伝子融合が起こったと考えた方が理解しやすい。そう考える根拠として、ClpABCのC末端側ATPaseと相同性の高いATPaseを一つだけ持つ蛋白が見つかっている。シュードモナス菌のAmiBやマウスのSKD3などである。これらの蛋白の機能については分かっていないが、ATPaseドメインよりさらにC末端側もClpABCと相同性がある。上に述べたHslUやClpXもATPaseドメインを一つだけ持つが、これらもATPaseドメインよりC末端側にClpABCファミリーと共通のモチーフを持つ。このためHslUはClpYとも呼ばれている。しかし、ATPaseの相同性はClpXとHslU(ClpY)ではかなり高いが、ClpABCのATPaseと比べるとN末端側、C末端側いずれともそれほど似ていない。

リング構造  

 電顕観察により蛋白分子複合体の構造解析が進み、プロテアーゼ分子についても高次構造がかなり分かってきた。そこからここで述べたプロテアーゼに共通する特徴が見え始めた。その一つはこれらのプロテアーゼの多くは多量体を形成し、リング構造をとることである。ClpA, P, HslU, V, FtsH, プロテアソームの触媒ユニットがそうである。分子シャペロンGroEL/ESが7回回転対称のリング構造をとることはよく知られている。これもプロテアーゼのATPaseがシャペロン機能を持つことと関連するのあろうか?ところが、これらのリング構造が何回回転対称構造をとるかという点については、2つのミステリーがある。いずれも6回回転対称か7回回転対称のリングであるが、まずパートナーとなる組合せでその対称性が合わない場合がある。ClpAPでは制御ATPaseユニットClpAが6回回転対称であるのに対して触媒ユニットClpPは7回回転対称となっている。HslVUでは、制御ATPaseユニットHslUが7回回転対称であるのに対して触媒ユニットは6回回転対称という知見と、いずれも6回回転対称であるという説があって、HslUの構造については確定していない。ClpPと会合するもう一つの制御ユニットClpXも6回回転対称構造をとるらしく、この場合にも対称性が合わない。もう一つのミステリーは、6回回転対称のリングを形成するHslVと相同なプロテアソームのβサブユニットは7回回転対称のリングを形成することである。制御ATPaseユニットの対称性と触媒ユニットの対称性が合わないClpAPについては、制御ATPaseユニットリングが触媒ユニットリングに対して回転するというモデルが提唱されている。上に述べたRuvBヘリカーゼも6量体(6回回転対称)のリング構造をとることが明らかにされており、2つのRuvB6量体リングはHolliday junctionに結合したRuv A4量体を挟んで結合し、ATP加水分解のエネルギーを使ってDNAを回転させるモーターと考えられている。条件の違いによって6量体であったり、7量体であったりする例があるので、実際にin vivoでは何量体で、対称性が合うのか合わないのかについては、今後の解析を待たねばならない。多量体形成とATPaseとの関係はどうか?これについては、ClpA, Hsp104, HslUについてATPaseドメインの関与が示されている。Hsp104についてはN末端側ドメインとC末端側ドメインのそれぞれに変異を導入してどちらのドメインが重要か調べられ、6量体形成にはC末端側ドメインが重要で、ATP結合が必要(加水分解は必要ではない)だが、ATPase活性(ATP加水分解)にはN末端側ドメインが重要という結果が報告されている。ところが、ClpAについても同様の解析がなされ、この場合にはN末端側ドメインが6量体形成に重要で、ATP加水分解にはC末端側ドメインが重要であるという。またまた困惑するデータである。いずれの蛋白についても蛋白が機能を発揮するには両方のATPaseドメインが共に必要であるという結果なので、どちらかが多量体形成で、どちらかがATPの加水分解という厳密な役割分担が決まっているのではないのかもしれない。

 以上述べてきたように、ATP依存性プロテアーゼのATPaseは単にプロテアーゼの制 御ユニット/ドメインとしてだけでなく、構造的にも機能的にも他の多くのATPase群 と関連しており、ATPaseの分子生物学としても興味が尽きない。今後解析が進めばさらに予期せぬ事実が判明するかもしれない。なお近縁のATPaseとの比較解析が最近2つのグループから発表された(総説)ので、 参考にされたい。

(熊本大学・医:小椋 光)

重点領域研究「蛋白分解のニューバイオロジー」ニュース「ぷろておりしす」第3号 より許可を得て転載(一部改変)


戻る
コメントやご助言は、ogura@gpo.kumamoto-u.ac.jp までメールを いただければ幸いです。
このページは、 97.9.11にアップデートされました。

記事の無断転載を禁じます。