FtsHと分子シャペロン

 大腸菌ではこれまでにClp (ClpAP、ClpXP)、Lon、HslUVおよびFtsHの4種類のATP依存性プロテアーゼが見出されている。FtsHはこれらATP依存性プロテアーゼの中で唯一の膜蛋白質である、細胞増殖に必須であるという点で特徴的であり、熱ショックシグマ因子(σ32)やλファージのcII蛋白質などの短寿命転写因子や正常にアセンブリー出来なかった膜蛋白質複合体の構成蛋白質(SecYやFo subunit a)を分解することが最近の研究で明らかにされた (1-6)。一方、ftsH変異株は一見蛋白質分解との関係が明らかではない多様な表現型を示す。実際筆者らは膜蛋白質(SecY)分解変異株としてftsHを分離したが、下記のようにこれとは全く異なるアプローチによってもftsH変異に行き当たった。細胞内蛋白質分解には加水分解を触媒するプロテアーゼと共に基質蛋白質の状態を変化させる分子シャペロンの役割の重要性が認識されつつある。シャペロンは「積極的」に基質蛋白質をアンフォールドしてプロテアーゼに提示したり、基質の凝集を防ぐことによって効率的な分解を促進すると考えられる。蛋白質分解に働く分子シャペロンはGroEL/SやDnaK/J/GrpEなど独立のシャペロンも蛋白質分解に働くことが知られているし、ClpプロテアーゼのClpAやClpXのようにサブユニットとしてプロテアーゼに本来組み込まれている”専用シャペロン”もあり(ClpXやClpAが細胞内でClpPと会合しない状態で細胞内で独立に分子シャペロンとして働いているのかについては明らかではない)、さらにLonプロテアーゼでは一つのポリペプチドの中にシャペロン活性とプロテアーゼ活性を併せ持つことが考えられ、酵母に於いては実例も報告された(7)。
 本稿では、筆者らの研究を中心にFtsHの「分子シャペロン的」機能を示唆する様々な性質について紹介する。なお、FtsHのプロテアーゼ機能については既に別のミニレビューでも紹介されているのでそちらをご覧頂きたい。

 内在性膜蛋白質が膜に組み込まれるメカニズム、就中その反応に於ける細胞装置の関与については現在でも必ずしも明確に理解されていない。筆者らはこの過程に関与する細胞装置の変異株を分離することを考え、内在性膜蛋白質SecYのC末端細胞質領域に局在性リポーターとしてPhoA(アルカリ性ホスファターゼのシグナル配列以外の配列)が融合した蛋白質を変異株スクリーニングに用いた。野生株中ではPhoAの融合したSecYのC末端領域は直前にあるSecYの膜貫通部位がいわゆる膜透過停止配列として働くため細胞質に留まるが、もし、膜透過停止が正常におこらなければPhoA部分はペリプラズムに達する(Std表現型)。その様な変異株としてftsH変異が見出された (8)。ftsH変異株ではStd表現型だけでなく、幾つかの表層蛋白質の膜透過の遅延も観察された(Sec表現型)。これとは別に元来コリンシンに対する抵抗性を示す変異株として分離されていたtolZ変異株もftsHに変異を持つことも明らかになった (9)。tolZ変異株では膜ポテンシャルの形成に欠陥がみられた。これらはFtsHが正常な膜機能の維持に関与することを示すものである。一方、FtsHの枯渇による生育阻害が分子シャペロンGroE(Hsp60/10)或いはHtpG(Hsp90)の過剰生産により回復し、ftsH変異によって起こるStd表現型、Sec表現型がそれぞれHtpG、GroEの過剰性により回復することが分かった (10)。このことからFtsHがGroE、HtpGそれぞれと部分的にオーバーラップする機能を持つ可能性が示唆された。

 FtsHの機能低下はStd表現型をもたらすが、その過剰生産はStdとは逆の効果を示す。内在性膜蛋白質MalFの細胞質領域にPhoAが融合したMalF-PhoAのPhoA部分の直前にある膜貫通配列に正電荷を持つ残基を導入すると、膜透過停止効率が低下して野生株中でもPhoAがペリプラズムに移行する。この時、野生型FtsHを過剰生産するとPhoAの膜透過が抑制された。PhoAは細胞質内ではS-S結合が形成されないためフォールディングできない。FtsHは融合蛋白質のアンフォールドしたPhoA部分と相互作用することによりPhoAを細胞質に留めるのではないかと考えている。実際、精製FtsHは変性したPhoA蛋白質に結合するが、nativeな酵素には全く結合しないことが分かった。興味深いことに、変性PhoAはFtsHに結合するにも関わらず分解されない。FtsHはポリペプチド結合能を持つが実際に分解されるのは限られた基質のみであることを示唆する。また、FtsHがATP非存在下でSecYとも結合し(ATP存在下では分解される)高温(42℃)で誘起される精製SecYの凝集を防ぐことを見出した。この様な性質も分子シャペロンと類似するものである。

 FtsHの相同体は真核生物(酵母)のミトコンドリアにも存在する。酵母ミトコンドリアのFtsH相同体、Yta10、Yta12、Yme1は何れもFtsH同様プロテアーゼ活性を持つと考えられている(11)。Yta10とYta12は複合体を作るが、これらの遺伝子の変異株中では F1Fo ATPaseのFo セクターの構成膜蛋白質Subunit 9 のアセンブリー(多量体化)が損なわれ、F1とFoとのアセンブリーも阻害される。また、やはり膜蛋白質複合体であるCytochromec oxidase の正常な複合体形成にもYta10/Yta12が必要である (7.12)。Yta10或いはYta12欠損株におけるSubunit 9のアセンブリーはZn2+プロテアーゼアクティブサイトモチーフの変異体によっても相補される(12)。このようなin vivoでの結果からYta10/12は蛋白質分解と独立に働きうる分子シャペロン機能を持つと主張されている。精製蛋白質を用いた生化学的解析が待たれる。グラム陽性菌B. subtilisではFtsHが胞子形成(Bacillus subtilis GeneticsのResearch/Interaction of SpoVM and FtsH参照)やストレス耐性等に関わることが示されており、それらもシャペロン的機能に関わるものかも知れない。

 FtsHはそれ自身ホモ多量体を形成する(13) と共に膜蛋白質HflK/HflCと複合体を作る (14)。変異株を用いたin vivo解析からHflK/HflCはFtsHのプロテアーゼ基質特異性を制御するのではないかと考えている。例えば膜蛋白質と細胞質蛋白質の分解に異なる影響を与えることが予備的に分かっている。HflK/HflCの作用機作は不明であるが、基質ポリペプチドの認識・結合に於いて働き、HflK/HflCはFtsHの分子シャペロン機能の制御にも関わるという興味ある可能性も考えられる。FtsHは細胞質側に大きなATPase・プロテアーゼドメインを持つが、HflK/HflCは逆に細胞質側ドメインは極小さく、その殆どがペリプラズム側に大きく露出していることが最近明らかになった(15)。この様なトポロジーからHflK/HflCが細胞質外(外界)から細胞質側に存在するFtsHの活性部位を制御していることが推測される想像を逞しくすれば細胞表層からの何らかのシグナルを認識して伝達するようなことも考えられる。プロテアーゼの制御機構の例として興味深い系ではなかろうか。

 以上概説したようにFtsHの分子シャペロン機能を示唆する種々の結果や観察から、我々はFtsH(複合体)が膜蛋白質をある場合には分解へ、又ある場合は正しいアセンブリーへと導く、プロテアーゼ機能と分子シャペロン機能と兼ね備えた膜のクオリティーコントロールマシンとして働くのではないかと考えている。一方では、上に挙げた「証拠」は全て状況証拠に過ぎず、FtsHが分子シャペロン的機能を持つことを直接示す証拠は得られていない。今後の重要な課題と考えている。

文献

1. Herman, C., Ogura, T., Tomoyasu, T., Hiraga, S., Akiyama, Y., Ito, K., Thomas, R., D'Ari, R., and Bouloc, P. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 10861-10865.
2. Herman, C., Thevenet, D., D'Ari, R., and Bouloc, P. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 3516-3520.
3. Tomoyasu, T., Gamer, J., Bukau, B., Kanemori, M,, Mori, H., Rutman, A. J., Oppenheim, A. B., Yura, T., Yamanaka, K., Niki, H., Hiraga, S., and Ogura, T. (1995) EMBO J. 14, 2551-2560.
4. Kihara, A., Akiyama, Y., and Ito, K. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 4532-4536.
5. Akiyama, Y., Kihara, A., Tokuda, H., and Ito, K. (1996) J. Biol. Chem. 271, 31196-31201. 6. Akiyama, Y., Kihara, A., and Ito, K. (1996) FEBS Lett. 399, 26-28.
7. Rep, M.,van Dijl, J. M., Suda, K., Schatz, G., Grivell, L. A., and Suzuki, C. K. (1996) Science, 274, 103-106.
8. Akiyama, Y., Ogura, T., and Ito, K. (1994) J. Biol. Chem. 269, 5218-5224.
9. Qu, J.-N., Makino, S., Adachi, H., Koyama, Y., Akiyama, Y., Ito, K., Tomoyasu, T., Ogura, T., and Matsuzawa, H. (1996) J. Bacteriol. 178, 3457-3461.
10. Shirai, Y., Akiyama, Y., and Ito, K. (1996) J. Bacteriol. 178, 1141-1145.
11. Leonhard, K., Herrmann, J. M., Stuart, R. A. Mannhaupt, G., Neupert, W., and Langer, T. (1996) EMBO J. 15, 4218-4229.
12. Arlt, H., Tauer, R., Feldmann, H., Neupert, W., Langer, T. (1996). Cell 85, 875-885.
13 Akiyama, Y., Yoshihisa, T., and Ito, K. (1995) J. Biol. Chem. 270, 23485-23490.
14. Kihara, A., Akiyama, Y., and Ito, K. (1996) EMBO J. 15, 6122-6131.
15. Kihara, A., Akiyama, Y., and Ito, K. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94, in press

(京大・ウイルス研:秋山芳展)

重点領域研究「蛋白分解のニューバイオロジー」ニュース「ぷろておりしす」第4号 より許可を得て転載

追加参考文献

Suzuki CK, Rep M, Maarten van Dijl J, Suda K, Grivell LA and Schatz G (1997) ATP-dependent proteases that also chaperone protein biogenesis. Trends Biochem Sci 22: 118-23.


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